読書メモ:紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている: 再生・日本製紙石巻工場

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東日本大震災が起きたとき、最初は交通手段もままなりませんでしたが、仕事復帰した時に、まずは書店さんで本が崩れた、停電で店を開けられない、ということがあり、そのあとに製紙工場が止まって紙がなくなるぞという情報が入ってきました。私は出版社に勤務している身ではありながら紙の製造流通についての知識が全くなく、紙屋さんという時の紙屋さんって何者?というレベルでしたので、事実であるだろう危機感は認識しつつも、どういうことなのか、どれぐらい深刻かということに対してはそれ以上の想像力も働かず、被災地の復興を祈りながらもそれ以上のイメージが持てずにいました。

本書の著者佐々さんも数々の著作を持ちながら紙がどこでどうやって作られているなんて全く知らなかったと記述がありましたが、実際のところ出版業界の中でも紙についての銘柄や流通について一定の知識があるのはごく一部だと思います。間接的に見聞きしていても、品質や特徴、値段やその商品にとっての向き・不向きなど掛け合わせの要素が複雑に絡みあっていて、「ああ、ここには簡単に踏み込めない」と敷居の高さを感じます。また、震災後もコロナの影響もあったかと思いますがその後、原油高・円安によってご多分にもれず紙の価格も派手に上がりました。電子書籍に対して「紙の本」という言い方ができましたが「紙の本」には紙が必須要素であり、まさに原価中の原価でありますのでメーカーとしては価格転嫁がどこまでできるか、新刊はいいけど既刊本は、各社はどうしているのだろうとコソコソ聞いたりしました。紙は生命線であり、さまざまな外的要因があっても「どうにかする」ことができる、少なくてもその大事さをわかっている組織体制になっているということは最優秀事項といえるでしょう。

そういう意味で本書の企画を立てた早川書房さん、知識ゼロから取材をされた佐々さんのお仕事は素晴らしいことだと思います。製紙工場の現場の仕事と、報道されることが少ない震災の生々しい惨状、どちらも情報として記録として貴重なものでありました。工場復活までのエピソードは感動ドキュメントでしたが、多くの人々が多くのものを失った中でのゴール設定された現場の作業はひとことで括れないものがあったと思います。自然災害時の知識としても、緊急時の人間の心理についても、リーダー論としても、プロジェクト推進についても読みどころ、考えどころがありすぎまして。

そんな『紙つなげ!』を紙媒体ではないもので、ちょっと後ろめたいマインドで読んでいる時に能登半島地震が起きました。復興を心よりお祈りいたします。

『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』
佐々 涼子 (著) 早川書房

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