すごくいいタイトルですよね。「僕には鳥の言葉がわかる」。ちょっと何をご冗談を、と思うような突飛な言い切りですが、読んでみると冗談ぽさは一切ない。では、どういうことなのか。つまり、著者は本気でそう言っているのです。真顔で。
さかなクンですら「魚語を話す」とはいいませんからね。「すギョいですね!」は“さかなクン語”であって“魚語”ではありません。
さて、本書は大真面目に「鳥──特にシジュウカラ──が、人間と同様に意味ある“言葉”を使っている」という衝撃の発見を語る科学エッセイです。いや、“エッセイ”と言ってしまいましたが、内容は鳥が本当に言葉を使っていることを証明するための、主に軽井沢でのフィールドワークにおける工夫と苦悩を描いたもの。軽妙な語り口ながらも、常軌を逸したような熱意、狂おしいほどの愛情が感じられます。もちろん、いい意味で、です。念のため。
鳥が集まる場所で調査を始め、餌を用意して観察していると、シジュウカラがこれまでと違う鳴き声を発し、それを聞いた鳥たちが次々と集まってきた。なんと、シジュウカラ以外の鳥まで! 不思議に思った著者は、そこから鳥の鳴き声の研究を本格的にスタートさせるのです。もう、この時点で読者としては興味津々になります。
紙の書籍版には、その鳴き声を実際に聞けるようQRコードから音声ファイルが提供されているそうですが、オーディオブック版ではなんとシジュウカラの鳴き声がそのまま挿入されているんです。これは驚きです。ちなみに「ヂヂヂヂ」=「集まれ」です。
研究成果を論文として発表するためのエビデンスをいかに構築するか。その工夫やフィールドワークの描写は臨場感にあふれ、また、研究者としての学術誌への投稿とその反響についても語られています。執筆についてはあっさりめに触れられていますが、有名学術誌に続々掲載されていくあたりは、まるでゲームのステージを次々とクリアしてレベルアップをしていくような爽快感があります。
ひとつの大きな研究が始まり、それが証明され、新しい学問としてスタートするまでの過程は、まさにアカデミック・サクセスストーリーです。同時に、研究者自身の“生態研究”ともいえる視点も描かれています。それは著者の探究心と筆力あってこそ。そして結果的に、本書はハイブリッドな研究レポートであり、エッセイでもある。大興奮のすギョい一冊でした。
まったく大きなお世話ですが、「探求」授業の教科書にしたらいいんじゃないかと思いました。
(本書はaudible版で読みました)
『僕には鳥の言葉がわかる』
鈴木 俊貴 (著) 小学館


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