新聞広告などで本書の存在は知っていましたが、特にピンと来ておらず、ライブラリに入れていませんでした。「新自由主義」という言葉は耳にしたことがあるものの、何かを定義しているのだろうな、という程度の認識で、自分にとって意味のある言葉とは思っていなかったのです。そうしたテーマをタイトルに冠した書籍に対しても、「遠い」と感じていました。
しかし、同僚が絶賛していたので、「あら、そう?」と軽い気持ちで購入。素直なので、人のおすすめにはすぐ飛びついてしまいます。
齋藤ジンさんは、ワシントンにある投資コンサルティング会社「オブザバトリー・グループ」を共同設立し、マネージング・ディレクターを務める人物です。政府関係者やヘッジファンドを顧客に持ち、世界の動きを読み解いてきたそのキャリアは、地政学、金融政策、為替、規制、そしてそれらの歴史を含むマクロな視点を備えています。こんな日本人がいたのか、とまず驚かされました。
帯コピーにもありますが、ジョージ・ソロス氏を顧客に持ち、2012年にソロス氏は彼の助言で約10億ドルの利益を得たというエピソードも強烈です。ところでこれ、言っていいやつなんですよね!?
「世界秩序」という大きく複雑なテーマを語るにあたり、無駄がなく、きっぱりと力強い語り口。その切れ味の良い文章はとても心地よく、惚れ惚れするほどです。こんなにも複雑な事象を、明晰な論理で言葉にできるなんて──。
地政学、金融政策、為替、法律といった前提知識、そして国家の立場、政治家というプレイヤーの思惑までを視野に入れたうえでの考察が展開されます。私たちは日々、ニュースとして流れてくる政治経済の新しいトピックスをただ眺めているだけで、その背後にある大きな構造までは汲み取ることができないですよね。
たとえば、第二次トランプ政権の成立を、多くの日本人が不思議に思ったのではないでしょうか。ニュースで様々な考察を見て、もっともらしい理由に一応は納得しつつも、本当なんかなあ、とどこか釈然としない。熱烈な支持者がいることはわかるけれど、それは一部の人だけで、マジョリティが投票するとは想像できないんだけど、実際のところどんな感じなんだろう、みたいな。そんな疑問にも、本書は明快な分析を提示してくれており、ああ、そういう側面があるんか、と非常に納得感がありました。
本書が注目される理由のひとつに、著者が「日本経済は数十年に一度のチャンスを迎えている」と主張している点があります。その理由の一つとして、「失われた30年のおかげ」という逆説的な視点が示されるのですが、これにはがくっときました。政治の世界ってそういうロジックや都合で動いていたんかね。。痛快すぎる一冊です。ぜひ定期的に刊行してほしいと感じました。
『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』
齋藤 ジン (著) 文春新書


コメント