読書メモ:フォン・ノイマンの哲学

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数学・物理(だがそれにとどまらない)の教授で論文多数。原爆を作った主要メンバーの1人。また投下する意思決定にも関わった。ゲーム理論の生みの親。天気予報の生みの親。現在のコンピュータの仕組みの基礎を作った人。なんだかすごい。名前はモノの本で触れられていたりしたことはあったのだろうが覚えてはおらず、はじめてしっかりと名前とやったことに触れたように思う。しかしこんなぶっ飛んだ人物だとは。

実は私本書はタイトル、特にサブタイトルが煽り系だったのでもっとトンデモ系の本かと思ってピックアップしたのでした。だって、「人間のフリをした悪魔」なんて普通つけないでしょう。よく見ずにむしろ軽い気持ちでカートに入れたですよ。フタを開けてみれば天才数学・物理学者が幼い頃からその才能を発揮し、師となる先達や同窓から愛され恐怖され。大学の教師としても引っ張りだこ。戦争でナチス台頭する欧州での混沌にも巻き込まれながらも常にその頭は計算を続けていた。米国に移ってからは軍事計画にも寄与し、研究を進める上でコンピュータの設計にも携わったと、相当端折っても実績の質量が尋常ではない。漫画のようだ。そういう意味では、結果的にトンデモ本だっともいえるか。

物理の応用研究は特に軍事利用と切っても切れないものがあるのでしょう。これまでの戦略、戦術がなんだったんだというぐらい、ボタンひとつで戦局を一変させてしまう致命的な兵器が世の中に初めて生まれたわけで、開発にあたって倫理的な議論がなされたこと、また開発されたあとの戦略にあたって投下候補地の選定がどのようになされたのかも書かれている。このような内幕が公開されているのも目的があってのことなのは間違いないが、それはともかくとして。ノイマンは重要な人物の1人として関わったわけで、天才の仕事が政治と軍事のバランスを決定的に壊すようなアウトプットを産むことがある。となると。ろくなコンピュータもない時代によくぞまあこんなことが、と想像にもつかない次元のことながらも戦慄する。そして次のステップとしてコンピュータの開発に関わるのだから、自分の数理研究が何に応用できるか、どんなインパクトを残すかという視野も恐ろしくあったんでしょうね。

算数から数学へ切り替わるぐらいで苦手意識が芽生えたこの脳みそに、数学の定理の複雑さや意義などの本質的な理解が不可能なのは無論承知の上だが、数学が得意なことでどのような学術的なキャリアの選択肢があり、そしてそれが産業等に応用される時の関わり合い、みたいなことが盛りだくさんのエピソードとして語られるので匂いを感じ取ることができた。また、核兵器のような致命的なものの開発とゲーム理論のような考え方が同居していたところとか、「人間のふりをした悪魔」というイメージはついぞ自分の中で結べなかったが。ただ同じ時代を生き同僚としても接したアインシュタインの知名度に比べると、ノイマンは少なくとも日本では全く名前を知られていない(ですよね?)わけで。同じくフェルミについてはフェルミ推定という概念は一般的ではないにしても汎用的に言葉としては使われているわけで。あ、フェルミが人名だと知られているわけではないか。。一方で、僕らは日々天気予報にお世話になっており、コンピュータは個人のPC端末はもちろん、社会のインフラとしてもう、なければ死んじゃうというレベルの食い込み方をしているわけで。もう一ターンすると、我々はかの有名な相対性理論のE=mc²という式を知ってはいても説明できない(巻き込んでしまいすいません)で。功績と知名度と「名を残す」ということに関しても、考えてしまいますね。ちょうど「キングダム」の最新刊69巻で、それこそ悪魔のように恐れられた戦の天才桓騎大将軍の戦が終決したのだが、全然違うけどダブって感慨に耽ってしまう。なんてオチだ。

『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』高橋 昌一郎 (著) 講談社
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