「壁打ち」はテニスの練習のことかと思いますよね。けれども最近では、ビジネス書に登場するキーワードとしてすっかり定着してきた印象があります。タイトルに『すごい壁打ち』とあっても、スポーツ書のコーナーに並ぶことはまずないでしょう。もちろんカバーを見ればビジネス書であることは一目瞭然です。本書は“壁打ち”というコミュニケーションに特化した一冊です。
数年来、「1on1ミーティング」という言葉もビジネスシーンでよく耳にするようになりました。最初はこの言葉も、日本語の「面談」とは違うニュアンスをどう伝えるかで、なかなか浸透しづらかったと思います。直訳すれば「一対一」「差しで」ですが、ビジネス文脈での“1on1”が何を指すのか、その共通認識を得るには難易度が高かった印象です。
その点、「壁打ち」という言葉の方が、イメージしやすいように思います。まるで申し稽古のように、相手の体や時間を借りて鍛えてもらう――柔道もありますよね、の稽古のようなニュアンスを含んでいて、理解しやすいコンセプトです。ただ、それでも就業中に先輩や上司に『壁打ちお願いします』と声をかけるというレベルのコミュニケーションには、まだ至っていないのではないかと思います。
また、壁打ちは相手が必要なコミュニケーションなので、アポイントや場所の確保といった準備も必要です。雑談以上、ミーティング未満のような絶妙なポジションのやり取りであるからこそ、社員同士のコミュニケーションに組み込むには、ある程度の組織的なコンセンサスが必要でしょう。
これからの時代、まずはAIと壁打ちしてある程度まで自分の考えを整理し、仕上げの部分で上司に壁打ちをお願いする――そんなやり方も出てくるかもしれません。いずれにせよ、本書は「壁打ち」に徹して書かれた、かなりチャレンジングな一冊だと感じました。
日本人は会議が苦手だと言われることがあります。自分の意見を言う緊張感、議論をまとめなければいけないプレッシャー、採用されなかったアイデアに対する申し訳なさ――そういった感情が壁になっているのかもしれません。
しかし、「壁打ち」はある意味ロールプレイ。壁役になる人も自分の意見だけでなく、相手の立場や実現可能性も踏まえてフィードバックできます。会議では言いづらいことでも、アドバイスという形で伝えることができる。しかも壁役は、その場では“言いっぱなし”でよいわけですから、健全なフィードバックが成立しやすいのです。
そういう意味では、会議よりも“ことを前に進める”という点で、壁打ちはとても実用的なコミュニケーションだと私も思います。
私自身、壁をお願いすることも、壁になることも増えてきましたが、やはり「良い壁になる」という意識は常に持っていたいものです。いわば“昭和プロレス”的な感覚、「いつ誰の挑戦でも受ける」という姿勢ですね。
まとまりはない感想文になってしまいましたが、壁打ちの有用性については、心から共感しかありません。本書はaudibleで読みました。
『すごい壁打ち』
石川 明 (著) サンマーク出版

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