デジタル書籍コンテンツとか海外版権だとか:2026年も大ピンチ図鑑

デジタル書籍・AI・海外版権

この2年間、年始に毎週、電子書籍・オーディオブック・AIテクノロジー・海外版権関係のニュースを集めています。わたしが勤めている会社でも、デジタルコンテンツやECとのお付き合い、そして海外案件の業務にも関わる中で、業界ニュースのトレンドを絡めながら「来年どうなっていくのかな」という不安と、「わたしの身の振り方はどうあればいいだろうか」といったことを、正月に昼酒を飲みながらぼんやり考えていたものをまとめた記事です。

私の立ち位置と、2025年の大ピンチの見立て

わたしの本業の立ち位置としては、デジタル系コンテンツの売上、ネット書店の施策、自社書籍の海外版権の販売に関わっております。「関わっています」というと随分距離があるような無責任な表現になりますが、やや内輪の事情で表現を曖昧にさせていただいております。ネガティブなニュアンスではございませんのでお気になさらず。そんな感じでございます。

漫画を出していない出版社に勤めておりますので、漫画やアニメのニュースはたくさんあるのでご紹介するのですけれども、どこか遠い目というか、青く見えてうらやましい方の“他人”の立場にいます。同じ業界な感じがしなくて。大手出版社の成長エンジンが「マンガ・IP・海外」の三本柱になっている、というニュースをここでご紹介するにつけ、羨ましいを通り越して恨めしく思いながらシェアしていたのでした。コメントの長さにその辺出てると思います。知識がないのもありますけどね。

この毎週ニュース紹介のアクセス数を見るに、見ていただいている方はほぼ知り合いか、「知ってはいる人」だと思いますので蛇足かもしれません。「アイコンは謎だけど相澤でしょ?」で終わってしまいそうですが、年に一度の自己紹介更新ということで書き添えておきます。はい、そんな変わってませんよ。

昨年は「デジタル書籍コンテンツとか海外版権だとか:2025年の大ピンチ図鑑」と題しまして記しました。

  1. 出版業界は大ピンチ図鑑
  2. AIがデジタル出版と言語の壁を統合して進む
  3. 紙は“紙であるべきところ/紙のお値段を吸収できるところ”へ寄っていく

ということで、AIの存在によって、デジタル出版は多言語まで含めて制作コストが劇的に圧縮していくのではないか。それに伴い海外版権のしきたりも変わっていくのではないか、という話でした。

そしてこれはデジタル・版権には直接関係ないのですが、資材の高騰が続き、まさに大ピンチ。コストが高くなるのは避けられない話なので、それだけの価格に見合う内容を企画として吟味し、改めて整理する必要があるのではないか——そんなことを書きました。

ここだけ取り出すと、「去年も引き続きそんな感じだなあ。特に変わらないかな。全文コピペでいいかな?バレないよね自分だってわかんないもん」と一瞬思いました。

でも、改めて去年の投稿を見るに、自分の見立てとしては変わっていないのに、「そうなってないな」と感じました。もっというと、そうなるきざしもないな、と。

ということで、そこから掘ってみたいと思います。

AIがデジタルコンテンツの制作コストを激減させ翻訳出版も連動する?の話

TTSの技術が進んでいることについては、昨年も多数の記事でご紹介いたしました。TTSをより自然な話し方にする技術もありましたが、「誰かの声」を学習させてTTSで再生させる話題の方が多かったかなと思います。いずれにしても進んでいます。もちろんオーディオブックのためだけの技術革新ではなく、映像作品のナレーション、音声ガイドなど、広い分野で使われるわけです。

では、出版のオーディオブック制作現場ではどうかと言われると、あまり実感がない、というのが本音です。理由はシンプルで、現在最もシェアが高いAudibleに関してはTTS制作作品が劇的に増えているものの、その制作は基本的にAudible側が担っているからです。つまり出版社ではなく、Audibleがコストをかけて制作してくれている。出版社としては、TTSの技術進化によってスピードも含めた制作コストがどう変わっているかを、直接目にする機会が少ないのです。

結果として、スピーディーにオーディオブックが制作できて、そこにお金がかからないというのは出版社にとってとてもありがたいことです。けれども、TTSによるデジタル制作についての試行錯誤(経験値)が出版社側に溜まっていっていないな、という実感があります。

オーディオブック市場全体の活性化を考えると、自社で制作して各プラットフォームに展開する、あるいは自社で直接販売することが望ましいのは承知しています。けれども、そもそもAudibleが(現状の設計として)「自社制作寄り」で回っている以上、出版社側が「その作品のTTSを自社でも作る」ところまで踏み込めていない、というのが現実かなと思います。

Amazonのカタログと完全に一体化しているAudibleが強いのは宿命であり自明であり、作品数も圧倒的です。オーディオブック.jpが法人販売に力を入れていたり、電子図書館との提携をしたり、新しい方向性に力を入れていますが、欧米であるようにリアル書店との提携といったアプローチも、もしかしたらあるかもしれません。

じゃあ君たちは新しいストアを待っているだけのステータスか」と言われると、とてもふがいないのですが、他国でニュースが出ているように、オーディオブックの認知とシェアが高まり、新しいストアが成立できるくらい盛り上がれば、新しいプレイヤーもおのずと現れるのかなと思います。「じゃあ君たちはムーブメント待ちかよ」といわれるとはなはだふがいないのですが、風を待ってます。オーディオブックファンクラブというブログを運営しながら待ってます。オーディオブックを毎日聞きながら待ってます。

デジタルから翻訳についても、同じような状況なのかなと思います。昨年は「日本のライツが話題になった1年」でした。『Butter』がベストセラーになり、また海外で賞を取った作品(『The Night of Baba Yaga』など)もあったことから、日本の小説がクローズアップされているというニュースが多々ありました。また、雨穴(うけつ)さんの作品が数十カ国に翻訳されドル箱に、という話題もありました。余談ですが本エントリのタイトルを『変な(業界)地図』にしようかちょっと迷いました。

実際、文芸を出している出版社の方に聞くと「問い合わせの数はとても増えている」。エージェントの方からも「フィクションの扱いが増えている」と聞いています。いいことだ。検討するためのサンプル翻訳コストが下がっているのは、AIの恩恵もあるかもしれませんよね。

翻訳については権利を買った出版社が行うものなので詳細なプロセスはわかりませんが、文芸作品はAI翻訳ではこぼれていってしまうニュアンスも多々あろうかと思いますので、AI翻訳に丸投げはもちろんないですね。

ではノンフィクションはどうか。こちらはもう少し進んでもよいのではないか、とも思います。ただ、学術的な厳密さが求められるもの、監修が必要なほど専門的なものは、やはりAIには任せられないでしょう。任せられる領域が違うといいますか。結局ジャンルによりますよね。

一方で、それ以外の要素はどうか。円安は続いている上に、翻訳コストも下がるなら、海外の権利は買いやすくなる。そういう期待もあります。でも「フィクションに釣られて盛り上がっているか」というと、体感としては、そこまで来ていない気がします。

もっと言うと、学術でもない、厳密で専門的なものでもないノンフィクションそのものが、AIに“食われている”のではないか、という不安があります。情報としての価値が「それなりに整理された一般向けの知識」くらいのところにあると、AIがそれっぽく要約し、説明できてしまう。そのとき「翻訳してまで本にする価値」は、どこに立つのか。ここが、結構重要なのではないかと思ってます。

そして資材高騰は各国事情としても似たところがある。となると、高い値段で出せる内容とは何か、という話になっていきます。学術とか専門とか、斬新さとか、著者の知名度とか。つまり、やはり「高くならざるを得ない単価に見合うもの」を追求または絞られていく、という話にやっぱり戻ってくるのかなと思います。

ここまで、デジタルと海外ライツについて、AIに絡めて振り返りました。大ピンチ図鑑なだけになかなかポジティブな展望は描きにくいのですが、来たるコスト増に向けての打ち手は、覚悟が必要ですね。

AIとコンテンツのややややこしい関係を考えてみる

もう一つ。これは「高くならざるを得ない単価に見合う価値」を提供できるか、という話とも関係しますが、AIとコンテンツについても少し考えてみたいと思います。

まず、制作アシスタントとしてのAIです。著者も調べたり整えたりで使うでしょう。出版社にとっても、校正、文字の揺らぎ、語句統一などのチェックは、AIの得意なところでしょう。

「これはAIが書いた作品か?」という議論は、小説などでは既に話題になっています。投稿サイトなどでは規約をどうするか、というところに収まっていくのかもしれませんが、著作権の線引きはどうなんだろう。ここはちゃんと追えていなかったですね。ノンフィクションでは、やはりファクトチェックや引用、著作権の扱いがよりシビアに効いてくる気がします。

次に、キャッシュポイントの話です。自分的にはこちらの方が自分ごとです(?)昨年も書きましたが、もし出版社が「情報・知識のエージェント」機能を担うのだとするなら、AIの学習に使われる情報を目利きし、提供することが新しい売上源になる可能性もあるのではないか。金額条件などはわからないけれど、その目線で接するのもありでは、と海外のバチバチニュースなどをみて思っています。新聞系では日本でもありますね。

そうなると、一次情報が見直されるかもしれない。各種レポート、例えば白書みたいなもの、論文もそうです。AIが理解しやすいように一次情報を再構成する、という仕事ができるのか。それともそれもAIがやってしまうのか。ここも、2026年に追っていきたいポイントです。

ここで大事なのは、「AIに使われる=勝手に吸い上げられる」だけではなく、“使われ方を切り分けて、対価が発生するルートが現実にでき始めている”という点です。

これまでご紹介してきたニュースを、私の有能なAIアシスタントきのこちゃんにまとめてもらいました。



実際、ニュース業界では、OpenAIがAPの記事アーカイブをライセンスする形の協業が早い段階で成立しています。 さらにAxel Springer(PoliticoやBusiness Insiderを擁する大手)との契約では、コンテンツを回答に活用するだけでなく、学習にも対価を支払う趣旨が報じられています。 News CorpもOpenAIと複数年契約を結び、学習と回答の両面でコンテンツ提供が進んでいます。

つまり、「出版社が目利きして提供する情報が売上になり得る」という仮説は、夢物語ではなく、少なくともメディア領域では“契約の型”が既にでき始めている。そして出版でも、同じ方向の動きが見えます。これまでニュースでご紹介してきた流れをまとめますと、たとえばHarperCollinsは、(報道ベースですが)Microsoft向けにノンフィクション作品をAI学習にライセンスする契約が話題になりました。ただし、ここで早速「じゃあ著者の同意は?」「対価配分は?」という論点が表に出ます。Authors Guildの解説では、この種の契約において著者オプトインや、タイトル単位の対価、分配の妥当性などが争点化していることがわかります。

この“対価ルート”が見え始めた一方で、反対側ではトラブルも積み上がっています。New York TimesがOpenAIとMicrosoftを提訴した件は象徴的で、「無断学習はフェアユースか」「出力が原文を侵害するか」「データ管理や保存義務はどうなるか」といった論点が係争の中心になっています。 さらに直近では、著名ノンフィクション作家ジョン・キャリールーらが複数社を相手取って訴訟を起こすなど、“書籍が学習に使われた”をめぐる火種は増えている。Anthropicの案件では、海賊版由来の学習データをめぐる集団訴訟が巨額で決着したとも報じられ、調達経路(正規か、海賊版か)が致命傷になり得ることも浮き彫りになりました。


なので、出版社側の実務としては、「AIに学習される/されない」の二択ではなく、少なくとも次の三点を切り分けて考える必要がありそうです。

  • (1)検索・回答のための利用(RAG等):最新記事や一次情報を“引用元付き”で出す。トラフィック誘導やサブスクに繋がる可能性がある。
  • (2)学習(モデル訓練)への提供:いわゆる“データライセンス”。対価が発生し得る一方、著者同意・配分・範囲が最大の交渉点。
  • (3)無断利用・海賊版経由:訴訟・レピュテーション・データガバナンスのリスクが大きい。

「一次情報が見直されるかもしれない」というのも、ここにつながります。AIが“それっぽい要約”を出せる時代ほど、出典の確かな一次情報、検証可能なデータ、権利処理の明確なコンテンツは価値が上がる。逆にいえば、出版社の仕事が「編集」だけではなく、情報の原石も含めた商社になるのが生き残る道かなあと。

翻訳のところで出た話とつなげますと、専門的なもの、用語的に厳密なものはコンテンツの価値として残るが、「そうでもないもの」の部分がAIに取って代わられる。専門的な情報を門外漢にもわかるように編集するという機能が出版にはありましたが、そこが消滅する。だって私も専門的なテキストをわかりやすくまとめてとAIにおねだりすることはしょっちゅうありますし。そんな使い方を日常的にしていると、入門書にお金払えなくなりますよね。むしろ入門書のサブスク払っていると思うと、それだけでAIのコスパがよく感じられます。

実際ハウツー本の売上やランキングを見るとその影響が出てきているのではないかと感じられます。ここは多分、抗えない(例外はもちろんあります)。なので、素人がわからない専門的な情報とAIを繋げる、という役割が登場するのかな?とか。

“AIが扱える形で整備して流通させる”方向

へ拡張される可能性があります。ただ、そこまで整備する仕事も、いつかはAIがやってしまうかもしれない。だからこそ2026年は、“AIができること”よりも、“誰が開拓して、どの形で提供するか”が差になる年だと思っています。ソース争奪戦といういい方もできるかもしれません。とっくか、それは。。AI学習とお金の話は、ニュースとしては揉めている話が中心になってしまいましたが、この中でビジネスとして自分たちが扱えるものはなにか、どのような提供方法が相応しいか、などを考える時間は、まだあるはずです(と思いたい)。この一次情報については、例えば会社四季報みたいなどでかいものは自社でAIを走らせて提供した方がビジネス的な上がりも大きいでしょうが、断片や、それだけでは対価が伴わないようなものは、バルクで、ということにはなってしまうのでしょうが。

例によって取り留めなくダラダラと書いてまいりましたが、結局いま考えているのは「これから何を“商品”として積み上げていくか」です。

  • 紙の書籍は、よりニッチに、そして「所有する意味や価値があるもの」「紙で持ちたいと思えるもの」へ寄っていく
  • 情報だけ欲しい場合は、デジタル的な提供(電子書籍、オーディオブック)になる
    • ただし、媒体特性に合わせた編集や、新しいフォーマットが必要になっていく気がします
  • そこに加えて、上で触れたような「AIに卸す情報(学習・回答の素材)」みたいなものが成立すると、柱が増える
    • 1次情報は、コンテンツを作るための副産物も含まれると思うんですよね
    • たとえば豆腐を作るときにできる“おから”みたいなものだと思えば、捨てる情報はないよね、エコだよね、みたいな

さらに言うと、動画での情報提供も含めて、

  • アーカイブ(パッケージ)としての書籍
  • 最新情報アップデートのためのデジタル発信

この2つを組み合わせる発想が、ますます必要になっていく気がします。変わるものと、変わらないもの、理論と実践でもいいかもしれません。その情報の考え方については感想文にも書きましたが「Plurality」の考えにはぶっ飛びました。ご参考まで。

一方で、「年間発行点数は何冊、売上金額目標は、返品は……」みたいな、これまでの出版社的売上の枠組みに肉付けしていく発想だけだと、なかなか難しいと思われます。延長線上だと、新しいお金の出口を見つけるのも遅れをとってしまうでしょう。主と従という考えは組織的にも軋轢を生みかねません。

だから、ふんわりですが、発想の起点はここしかないのかなと思っています。

  • AIによって不要になるもの
  • AIに必要とされるもの
  • それでも人が対価を払うもの

この3つを見極めて、掛け合わせて何を提供できるか考える。

昨年の「見立ては変わってないのに現状は変わらなかった」を、少なくとも自分の周りでは何か動かしたいな、と。自分ごととしては、そう思っています。曖昧ですが、その目線で考えて話をしていきたいなあ、と思っています。

毎度のことですが、このエントリは区切りの頭の整理でもありますが、「情報交換・ブレスト求む」の募集広告でもあるのです。ピンときたら、飲みましょう。

ここまで読んでいただいて、もう大好きです。最後になりますが、二人目のアシスタントマジカルバナナちゃん(仮名)にこの内容をまとめてもらいました。ほお〜、こういうふうになってるんだ何か意味ある風になっててかっこいい!


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