桜林直子さんの『あなたはなぜ雑談が苦手なのか』を読みました。
タイトルだけを見ると、「雑談が苦手な人のための会話術」のような本を想像するかもしれません。私もそう思って読み始めました。読み終えたときに感じたのは、この本は雑談のテクニック本ではないということです。
もちろん、雑談をするときの考え方やコツはたくさん紹介されています。でも、それ以上に「人とどう関わるか」「自分の気持ちをどう扱うか」、そして「自分らしく生きること」「自分らしいビジネスをすること」についての印象が残りました。
桜林直子さんという人
桜林直子さんは、お菓子店「SAC about cookies」を営みながら、エッセイストとしても活動されている方です。そして、この本を書くまでに3000回以上、一対一の「雑談」を重ねてきたそうです。
その経験から生まれたのが、この一冊です。
だから、本に書かれていることは机上の理論ではなく、実際に初対面のたくさんの人と向き合う中で経験し、考えられてきたこと。その積み重ねからきている言葉だということが伝わります。
雑談は、自分を知るための時間
「雑談は、自分がどうしたいかを知るための時間」という考え方がありました。雑談というと、「何を話せばいいのか」「沈黙になったらどうしよう」と考えがちです。
でも桜林さんは、雑談は相手を楽しませるためのものでも、気のきいたことをいう場でもないと言います。自分の気持ちを少しずつ言葉にしながら、相手との間に安心できる関係をつくっていく時間なのだと。
だから、「うまく話そう」と思えば思うほど苦しくなる。それよりも、自分が何を感じているのか、自分はどうしたいのかを素直に言葉にしていくことのほうが大切なのだというのは、特に自分が話し下手だと思っている人にとってはほっとするのではないでしょうか。
テクニックはある。でも目的ではない
本の中には雑談が苦手な人でも実践できそうな考え方やテクニックも紹介されています。
例えば、「不信メガネ」や「プール理論」といった桜林さんならではの言葉を使いながら、人との距離感や信頼関係をわかりやすく説明しています。「ちゃんと聞こうとしすぎなくていい」「話をまとめなくていい」という考え方もなかなか関連書ではでてこないですよね。
私たちはつい真面目に正解を出そうとしたり、相手の役に立とうとしたりします。でも雑談では、それよりも「一緒に考えること」や「安心して話せること」のほうが大切。
だから、この本に書かれているテクニックも、会話を上手にするためではなく、人と自然につながるための手段として紹介されています。
パーソナル起業であり、ライフスタイルの本でもある
この本はパーソナル起業やライフスタイルについての本でもあるということです。桜林さんは「雑談」という、誰でもやっている、ビジネスには程遠いと思われることを仕事にしました。
普通なら価値にならないと思われているものを、自分だからできる形に育てていった。その背景には、人と向き合い続けてきた経験や、自分が大切にしている価値観があります。また、カウンセリングやコーチングという対面コミュニケーションの言葉を言いかえたわけではありません。
一人で仕事をしている人や、これから自分の名前で活動していきたい人にとっても、多くの気づきがある一冊だと思います。好きなことがそのまま仕事になるわけじゃない、といいますけど、仕事として成立させるための試行錯誤も書かれています。
というわけでさまざまな角度から読める、唯一無二といってもいい自分語りの雑談本でした。面白かった。
『あなたはなぜ雑談が苦手なのか(新潮新書)』
桜林直子 (著) 新潮社



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