「静かな退職」というタイトルを見たとき、私は勝手に、若者が辞める理由も言わず、ある日突然会社に来なくなってしまうような問題があるのかなとイメージしていました。
ところが、そうではないのですね。
「退職」はしません。与えられた仕事、約束された仕事はきちんとこなし、それ以外のことは積極的にはやらない。会社への過度なコミットメントはせず、出世を目指すわけでもない。いわば「サラリーマン金太郎」のような価値観とは対極にある、淡々と仕事をこなす働き方、あるいは考え方のことでした。
本書は、「それはけしからん」という話ではありません。
むしろ、ワークライフバランスが比較的確立しているといわれる欧米の働き方や、ジョブ型雇用について、その成り立ちから説明してくれます。
私は「ジョブ型だから、やることとやらないことをはっきり分ける働き方なのだろう」くらいの表面的な理解しかありませんでした。しかし、本書を読むと、単純にそういう話ではないことが分かります。結果としてそういう面はありますが、仕事に対するスタンスや考え方の土台そのものが違うのです。日本でも「これからはジョブ型になる」と気軽に言われることがありますが、その言葉だけが独り歩きしている面もあるのだと感じました。
日本語では、「モチベーションが低く最低限の責任だけ果たす」という個人に問題があるような説明が出てくる一方、英語では、「引き受けた場合追加報酬をもらうべき、ジョブディスクリプションに書かれていない仕事をやらない」という合理的な説明が出てきます。本書で述べらているように、日本では皆の善意で成り立っている自分の範囲外の労働が欧米では追加報酬の対象になる点と、欧米ではエリート層と非エリート層が最初からある程度決まっており、非エリート層への無形のプレッシャーがない点が、静かな退職をする人々への不満が生まれるか否かにつながっているのだと思います。こんなの知らなかった、ですもの。
日本では欧米の制度だけを取り入れて、その背景や理由まで十分に理解・共有されないまま運用されることも少なくありません。だからこそ、制度の意味を組織がきちんと説明できるかどうかは、とても重要。の前に欧米との前提の違いを理解しないと、痛い目をみることもありそうです。
「うちの会社はどうだろう」「あの取引先はどうだろう」と、身近な職場のことが次々と頭に浮かびました。示唆に富みまくりで面白かったです。

静かな退職という働き方
海老原 嗣生 (著) (PHP新書)



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