これだけ海外でベストセラーになっている作品は、気にならないわけがありません。何十カ国語に訳されているという情報も聞きました。海外版権に携わる者として、読んでおくべきだと思ってはいたのですよそれは間違いなく。しかし心のどこかで、「だからといって、自分たちが扱っているノンフィクションとは違う、小説だもの」という思いもありました。それがあきらめとか嫉妬とかそういう由来だったとかはねなかったとはいえないですよ。
でもなあ、海外の方々とコミュニケーションをする際に、「あなたは『バター』を読んでいないのですか?こんなに話題になっているのに、なぜ読まないのですか」と詰められたり、「あ、日本の方ですか?『バター』最高ですね」といわれたりすると、困ってしまいます。そのような機会は多くない、どころではなくほとんどないですのでほぼ妄想レベルなんですが、これはやはりたしなんでおかないと。
意を決して読み始めたのですが、こんな話だったのかと驚きました。これだけ話題になっているにもかかわらず、ストーリーについてはまったく知らず、カバーの女の子のイラストから、みんなが大好きなバターが出てくる料理のストーリーなのではないか、という程度のイメージしか持っていませんでした。全然外れているわけではないですけど。
実際には、ほんわかではなく非常にリアルでドロドロとした物語でした。正直なところ、私のようなおじさんが読んでよいものかと戸惑うような、どこかアウェイ感を覚えながらスタートしました。ストーリーにはしっかりと引き込まれ、ゴールが見えそうで見えない、不透明な道を引っ張られるように読み進めていきました。
ここまで詳細に、そして確かな力で読者を物語へ導く構成力と描写には、感動というよりも、何かもうついていくのを観念しながら筋をたどっていくような読書体験でした。いい意味で、です。
当初は「なぜ海外で受けているのか」という問いを持って読み始めたはずでしたが、そのことはすっかり頭から抜け落ちていました。読み終えてからふと思い出したものの、その問いに対する答えは、正直なところよくわかりません。だってさ。
インパクトが大きかったため、それを言い訳にしているだけなのですが、読書メモも書きづらく、しばらく放置していました。自分のメモなのに躊躇する必要も、肩に力を入れる必要もまったくないのですが、それでも書き出せないことはやはりあります。
そのような状況の中、昨日の昼前に流れてきたニュースを見て、再び驚きました。
『BUTTER』版権、新潮社→河出書房新社へ 柚木麻子氏が決断「差別や排除に対しどう立ち向かうべきか」

売れまくっている状態でのこの話は、さぞやハイカロリーな交渉や調整が必要だったことと思います。言えるところ言えないところもちろんあると思うのですが、究極的に「作家的な」意思表明であるなあと思った次第です。ただただ驚いた、それしか出てこない。
「BUTTER」
柚木 麻子 (著) 新潮社



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