同僚のおすすめもあって、この本を手に取りました。
14時間にもおよぶ長さということで、それだけでもパワーが要るなと思いつつ、さらにテーマが非常に大きいため、構えてしまいますよね。
それでも、非常に読みやすかったです。翻訳がいいんだと思います。さらに、ナレーターさんの声もとても本書にあった感じで聞き取りやすく、快適に最後まで聴くことができました。
本書は、今回のロシアのウクライナ侵攻に対する西欧諸国、そして中国などの大国の立ち位置など含めて、国家の関係性や、各国の目論見、さらに歴史と現状を踏まえた考察が語られて、西洋ヤバし。そうした関係性の機微においては、どうしても難解な部分もありましたし、私自身全然予備知識がない詳しくないので、すーっと頭に流れていってしまったところもしばしばありましたが、それでも14時間という長さを感じさせない内容でした。
先日読んだ『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』や、同じく文藝春秋から出版されている齋藤ジンさんの『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』など、グローバルな政治・経済に関する書籍を続けて読んでいたこともあり、自分たちがいかに偏った視点で報道を受け取り、それを信じ込み、ニュースで聞いたまんまを訳知り顔で飲み屋で語っているのかということを痛感しました。自分が知らないということを知る、というのは恥ずかしいですが刺激的ではありますよね。
私たちは「こちら側」「あちら側」と無意識に分けて物事を捉え、「こちら側」であるはずのアメリカについても、実際には何も分かっていない。なぜトランプが復活し、再び支持を集め、これから何をしようとしているのかも正直分かっていないのに、それでも「こっち側で安心」——そうした思い込みにどっぷりつかっていることを自覚しました。
たとえばロシアによるウクライナ侵攻について、「理解できない」「どうせうまくいかない」「どうにかなるでしょう」と他人事のように捉えがちです。悲惨な現場の報道に心を痛めながらも、「早く終わってほしい」と願うばかりで、ロシアの本当の狙いや、その背景にある歴史や思考には「わけわからないもの」と決めつけ目を向けてこなかった。私自身も「とにかく好戦的な首相」として片づけ、終了となっていました。
そのような思考停止に対し、著者は違和感を持ち、歴史的な流れと政治的な文脈をふまえて、私たちが見過ごしてきた「意味のない」とされるメッセージを拾い上げ、分析し、自らの意見として表明しています。
また本書は、今回のウクライナ侵攻が今後どのように収束していくのかについても、明確な見解を提示しています。その予測の正しさを、私自身が判断できるわけではありませんが、少なくとも「判断を放棄していた」自分に気づき、理解するきっかけにはなりました。
それだけでも、この本を読んだ価値があったと感じています。
本書はオーディブル版で読みました。
エマニュエル・トッド (著), 大野 舞 (翻訳)

コメント