読書メモ:疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた

オーディオブック読書メモ

講談社ブルーバックス。その存在は以前からよく知っていたものの、学生時代に何冊か読もうとしたことはあるが、ほぼ読み切ったことがないシリーズでした。タイトルやテーマは面白そうなのに、本題に入るあたりから専門用語が増えてきて、ついていけず挫折する、そんな印象がありました。

オーディオブックの利点は、たとえ内容についていけなくなっても、再生さえしていれば読み終えることができる、という“強引なメリット”があるところ。今回もこれまでと同じく、興味ベースで手に取って「ついていけないけど、とにかくゴールだけはする」という姿勢で臨みました。つまり「ブルーバックスだけど音声だから大丈夫」という安心感で聞き始めました。

結果として、本書も例にもれず、専門的な疲労を生み出すメカニズム——特に専門用語が絡む部分に関しては、正直なところ理解はあやしいです。ただ、そうした用語の理解は脇に置いたとしても、本書には知的興奮に満ちたワクワク感が詰まっていました。

のっけのつかみも引き込んでくれます。欧米では、少し疲れたと感じたらしっかり休息を取る文化が根付いているのに対し、日本では「お疲れ様」と疲れに“様”をつけてしまうくらい、疲れるぐらい勤勉なことが美徳とされがち。そんな文化の違いから、日本が疲労研究の先進国になっていったという枕に、もう食い気味。

「疲れとは何か」という問いから始まり、そこから疲れが“病気”とされる原因に迫っていきます。私たちが日常で感じる「だる重〜」みたいなものではなく、ウイルス・遺伝子・炎症・脳機能が関与する、より深刻な“病的な疲労”に関する研究が、まるでルポルタージュのように語られていきます。それが著者自身の研究に基づいているからこその臨場感と迫力があります。

さらに、研究の発端が著者の専門外である「うつ病」に関係していたり、コロナ後遺症との関連から派生していたりと、まさに今と地続きのリアルな事象と関係している点も魅力的でした。まさに「今」の研究なんだ、という。

印象的だったのは、うつ病の原因とされるウイルスに「SITH-1(シスワン)」と命名したという話。スター・ウォーズのダークサイドからの引用で、ちょっとした洒落っけかつ世界を見据えている点が痛快でした。また、著者自身がブルーバックスの大ファンであり、出版のオファーを喜んで引き受けたというエピソードも、なんだか温かい気持ちになりました。

本書は単なる学術レポートにとどまらず、後半にはSF的とも言えるロマンあふれる仮説が披露されます。仮説で締めくくるという意外なラストに、すっかり心を持っていかれて、全乗っかりして興奮している自分に気づいた次第です。さすが大ファン、憎い演出です。

(本書はaudiobook.jp版で聞きました)

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『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』
近藤一博 著 講談社ブルーバックス

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