大学時代、村上春樹の作品はそれまでに出ていたものを一通り読んだ記憶があります。『ノルウェイの森』がきっかけだったのか、そのあたりは曖昧ですが、とにかくあの頃からずっと読んでいました。それまで経験したことのない、不条理かロジカルなのかどうかも判断できない不思議な設定、独特の静かな会話、ミニマルで個人的な雰囲気、そしてビール。味わったことのない読後感に「深い」「もっともっと」と惹かれ、『鼠三部作』をはじめ、エッセイなども含めて一通り読んだと思います。
その後、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』状態になり、次第にフィクションから遠ざかっていきました。作品自体も、一作が数冊にわたるような大長編が増え、読むハードルが高くなったことも影響していたと思います。おそらく『海辺のカフカ』あたりから読まなくなったのではないでしょうか。この『神の子どもたちはみな踊る』も、紙の本では読んでいません。新作情報をチェックすることすらなかった時期だったと思います。
そんな中、オーディオブック化されたのをきっかけに、目に留まり、ポチっとしたわけですが、これがまさに村上春樹的な余韻にあふれた短編集でした。内容やストーリーの云々以前に、たとえば「かえるくん」というネーミングひとつとっても、それだけで村上春樹です。耳で聞いているのに、活字で「かえるくん」というひらがながふわっと浮かんでくるような感覚でした。短編なだけに“らしさ”が濃縮されていて、いい方はあれですが、懐かしく読んだ、という感覚がふさわしいかなと思います。
おそらく私と同世代で、私と同じようにいつの間にか村上春樹から離れてしまっていた人も多いのではないでしょうか。そんな方々の“復帰戦”としても、おすすめしたいですね。
そういえば、私のChatGPTアシスタントは「きのこちゃん」と名付けているのですが、ちょっと「かえるくん」と似ていますね。それだけですが。

『神の子どもたちはみな踊る』
村上 春樹 (著) 新潮文庫
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