『成瀬は天下を取りにいく』の2冊については、このブログでも感想を書きましたが、とても爽やかで、読んでいて楽しい小説でした。子どもがちょうど大学受験の時期だったこともあり、2冊目に関しては父親目線も入りながら、しっかりと入り込んだ記憶があります。
本書『婚活マエストロ』も、書店で大きく展開されているのは目にしていたのですが、宮島未奈さんの新作だとは気づいていませんでした。何かのレビューかSNSでそれを知り、オーディオブックを探してみると、しっかりと配信されていたので、さっそくポチッと購入。今回はaudiobook.jpの版で聴きました。
地方のたたずまいとか、どこかモラトリアムな空気感、それから徐々に増えていく仕事のリアルさ。誰とも話さずに日常が成立してしまうことや、そんな状況がふとしたきっかけで変わる様子。そのきっかけは特別な何かではなく、日常の延長にあるような、流されるように始まる変化だったりします。
自分に対する迷いの中で、自分の振る舞いをツッコミをいれつつ冷静に見つめる主人公。流れの中で芽生えたこうなったらいいなという希望が、迷いから「こうしてもいいんだよな」と変わっていく様子が丁寧すぎるぐらいリアルで気にならざるを得ない。成瀬とは対照的に、主人公はどうにも主張がなくて、1日何も起きていないような日常を少しずつ変えていく。その変化を静かに受け入れ、受け身から自覚していくプロセスがじっくりコトコト書かれていて、それを「なんとなく見守る」というスタンスで読み進めることが、とても心地よかったです。
婚活の話ですが、社会見学として楽しめましたが、自己紹介の機微についてうなるような細やかさが勉強になりました。婚活パーティ参加者たちも、どこにでもいそうな破綻なく大人な人々にある個性の描写がノンフィクションみたいでしたよ。すごいなあプロは。
この先どうなるのだろうか、と想像するよりも、背後霊のようなスタンスで(見守るたとえになっていないか)読んでいたい。そんなスタンスで憑き添いました。
次にサイゼリヤに行く時には、パンナコッタを食べようと思いました。
オーディオブックとしての感想も一言。会話がセリフとしてドラマのようにきけま。効果音も全編さりげなく挿入されているなど、細部までこだわった作品になっていました。

『婚活マエストロ』
宮島 未奈 (著) 文藝春秋
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