読書メモ:老人の知恵

オーディオブック読書メモ

『老人の知恵』は、養老孟司さんと田原総一朗さん、二人の“知の巨人”による対談本です。お二人それぞれの著書は読んだことがありましたが、今回あらためて「同世代」のお二人の会話を通じ、世代のわずかな年齢差が戦争という大きな体験をどう違うものにするのか、という視点に気づかされました。戦争を実際に経験した年齢によって、その後の社会や国家に対する見方が変わるというお話には、そういうことなのかと納得。戦争を知る“最後の世代”として「この言葉は残しておきたい」という強い動機が本書から伝わってきます。記録としては既に多く残っているはずですが、こうして新しく出るコンテンツとして世に出る意義を感じました。

とはいえ内容は戦争だけにとどまらず、体の衰え、昆虫、教育、学生運動、日本のものづくり、国防、死生観まで、実に多岐にわたります。対談形式ではありますが、全体としては田原さんが養老さんに積極的に質問を投げかけるインタビューに近い印象。田原さん自身の主張も所々に差し込まれ、やはり“聞き手であり語り手”としてのジャーナリスト魂を感じます。一方の養老さんは、いつものようにどっしりと受け答えする泰然自若な姿勢。正直、話が噛み合っているのかどうか…私には判断がつかない場面もありましたが、それもまた生の会話の味わいかもしれません。

個人的には、養老先生が語る「死に対する感覚」にとても共感を覚えました。解剖学に長く携わり、趣味で虫の標本を十万点作ったという経歴を持つ方だからこその、死に対するある種の達観が言葉に滲み出ていて、心地よく、学びの多い部分でした。

最後に本書の内容とは直接関係ありませんが、今回はAudibleのオーディオブック版で聴きました。この作品、なんとAI合成音声で制作されているのですね。正直驚きました。田原さんも養老さんもテレビで見慣れたお二人なので、自然と「ご本人の声」を脳内再生してしまう分、AI音声のリズムには多少違和感も。ただ、そもそも著名人の対談を“音”で再現すること自体、難易度が高いのだろうと改めて感じました。人間の声でも若いナレーターさんでは違和感が出るかもしれませんし、本人AI音声ならどこまで迫れるのか、とか。どこまで“本人性”を求めるのか、求めるべきなのか?など、面白い課題だなと。

著:田原 総一朗, 著:養老 孟司
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『老人の知恵』
田原総一朗 (著), 養老孟司 (著) 毎日新聞出版

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