はい、計画的に読んだわけではないのですが
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因 (光文社新書)』
に続くスキーマ三部作の3冊目です。 三部作は私がたまたま続けて読んだだけのことです。あらためてスキーマですが、過去の経験や知識に基づいて頭の中にできあがった「理解の枠組み」や「知識のテンプレート」のことで、これはこういうもんだよね、という「わかってること」みたいな認識でございます。
「最近の子どもたちは学力が落ちている」それはテストの点数だけでは測れない、もっと深い「学ぶ力」なのではないか。そんな問題意識からスタートしています。
本書は、子どもの学習につまずきが起こる背景に、「思考力」の理解不足があるということを、具体例とともに解説しています。すごいなあと思ったのは著者がただ問題を指摘するだけでなく、「たつじんテスト」という実践的なツールを開発しているところ。これは、子どもがどこで、どうつまずいているかを明らかにし、教育現場でその子に合ったアプローチを見つけるための道しるべになるものです。
印象的だったのは、分数が子どもたちにとって鬼門になっているという話。「ピザを2つに分けること=ニブンノイチ」と捉える子どもの例。なるほど、丸い形の「2分割」という見た目の体験から学んでいるわけですね。でもそれが「いびつな形のケーキ」や「5人の子どもたち」になると、同じように分けられなくなる。2分の1という見た目では存在しない考え方はかなりハードルの高い抽象概念なのだと気づかされました。と書いておきながら、私も分数は苦手です。電卓で計算しようとして分母と分子を逆に入力してしまうこと、いまだによくあります。
本書が提案するのが、「思考力」を3つの能力に分解して捉える方法です。
- アブダクション推論能力:複数の知識や経験を組み合わせて、新たな視点や仮説を導き出す力。
- 認知・情報処理能力:思考を実行するために必要な情報を的確に取り込み、整理する力。
- メタ認知能力:自分の思考を客観的に見直し、間違いに気づいて修正する力。
著者は、思考のつまずきは、知識不足というより「思考の扱い方」が未熟なことが原因と説きます。その観点から教育の役割も「知識を詰め込む教育」から「思考のバイアスを自らコントロールできるようになる教育」へと、シフトすべきだと提案しています。納得。
少子化だからきめ細かい指導ができるかといえばそんな単純ではないことは、子どもたちも年頃なのでわかります。わかったつまずきの克服も難題ですね。いいスキーマスイッチができるといいですけど。

学力喪失 認知科学による回復への道筋 (岩波新書)
今井 むつみ (著) 岩波書店
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