コンテンツビジネスにとってAI学習は新しいキャッシュポイントなのだろうか

デジタル書籍・AI・海外版権

日本では出版社がAI企業とガッツリコンテンツ提携という話はまだ聞いたことはないですが、欧米ではおやっという大手が提携して燃え上がったりしたニュースがありましたね。そんな中で興味深い記事が二つ入ってきたのでご紹介します。

史上最大の強盗事件に出版社はどう対抗すべきか/How publishers should fight back against the greatest heist in history(Press Gazette)

英国のAI学習制度に関しての記事なのですが、とても強い論調です。AI企業はコンテンツをタダだと思っている。ネットメディア、出版社にとどまらずすべての表現者はガッツリやられてますよ!彼らIT会社は光熱費やサーバ代は払ってもコンテンツに金を払う気なんてないんだ!と、ボコボコです。

オプトアウトが本当に効果がないのか、クリエイターが無自覚にデータを学習されているのかという事実はさておき、記事では政府へのコンテンツ保護の要望と、クリエイターの団結を訴えています。英国も日本と似ているというか、著作権には気を遣いつつAIの開発にも柔軟に考えているというステータスなのかな。このまま無政府状態になることを恐れて警鐘を鳴らしています。


一方で国内ですが、このようなリリースがありました。

note、クリエイターにAI学習の対価を還元する実証実験をはじめます(note)

実は24日に行われたnoteの株主総会に参加したんですね。同社の株主総会ははじめてだったのですが、ベンチャーらしさというか、若々しさというかほどよいカジュアルさというかが居心地良くて気持ちよかったです。80名ぐらいいたのかな。若い人が多くて驚き。10時開始で、議題が決議されてから今度は株主MTGという、会社からのプレゼンと質疑の場があり、質疑も絶えず終了したのは1時半近く。こりゃすごい。熱量ある3時間半でした。頭がいい感じに疲れました。

お土産もいただきましたよ!ありがとうございます!

総会の中で、同社が積極的に投資を進めているAIを使ったクリエイター支援についてプレゼンがあった時にとても興味深い質問が出ました。noteユーザーでもある株主さんからで、私が感じたニュアンスでいいますと「noteにはクリエイターらしさバリバリのとがったものもあるけれど、一方であたたかみのある、人間らしいメッセージや堅苦しくない記事があって面白かったが、そのような記事がAI支援によって薄れていく、なくなっていくのはさみしいと感じる。その辺りのバランスをどうお考えか」というものでした。note社からの答えは、「ご心配のポイントはよくわかる。全ての記事をAIに書かせるというのが目的ではなく、クリエイターの創造をAIの力も使ってサポートしていくつもりだ」みたいなものだったかと思います(私の記憶の中のイメージですが)。質疑全体ででた言葉をまとめると、日々進化してアシスタントして中堅のコンサル並みの能力にもなってしまうんじゃないか、とも思われるAIのすごいところをクリエイターに存分に活用してもらえるよう、創造を加速し質を高めるためにツールとして提供していきたい、そのための投資を続けていくというような内容だったかと思います。ああ、正しい、気持ちよく正しいよな、家路についたのでした。

そして翌日、このリリースが出まして「おっ」となったのでした。

note社のミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」。続けられるようにする、にはコンテンツを販売する場を提供したり、販売方法を模索したり、マーケティング支援をしたりしてクリエイターの創作環境を提供し、また収入に結びつけてビジネスとしても続けられるようにする、ということかと思います。そして今回のリリースは新しい収入の引き出しが増えましたよ、という情報かと思います。自分がnoteで書いた記事などをAIの学習材料として提供することで、そのコンテンツに対する褒賞を支払う、というものです。

そういえば少し前に、Xに投稿された素材(画像でしたっけ)はAIの学習対象になるとなって、荒れたりしてたようなことがありましたね。この時は仕様をそうしました、みたいな発表だったんですかね。もちろん投稿者に報酬はもらえません。ただより高いものはない?一般のユーザーは別に?って感じかもしれませんね。企業で商材のクリエイティブを扱っていたりする場合は繊細になる部分はあるでしょうね。余談でした。

今回のnote社のリリースは冒頭に紹介した、AI会社はクリエイティブ強盗だ!という記事と真逆な感じに思えますが、さてこれはどういうことなんでしょう?

審査はあるのかとは思いますが、現状は記事なり画像や動画なりを販売しなければ収入にならなかったのが、書くだけでお金が入ってくる!?これはひょっとしたらとても楽ちんな副業になるのでは?という予感がするのですが、どうでしょう。ひとつは、ギャラです。たとえば職業ライターさんが仕事のスキマ時間に趣味で書いているがあるnoteがあるとして、趣味の山登りについてマニアックだけどエンタメ性もあって人気があるとしましょう。あくまで趣味なのでライター氏も有料記事にするつもりはないのですが、このnoteのリリースを見て、別に学習されて困るようなこともないし、正確ではないところもあるかもしれないけどそこはビッグテータのごく一部だし問題ないだろう、と申請してみたとします。

ライター氏は、今のままでも別にいいけど、それでお金をもらえるならもらっておこう、と判断したわけです。収入に飢えているわけでもなく、そういうのがあるなら、てな感じで。早速けんすうさんも以下のような書き込みが。

こちらはさらに収入から遠く、AIの精度向上のために寄付をします、という感じです。

寄付。ボランティア。クラウド時代のエコシステムが回っている感じがします。オープンソースのように、世界中の人々の経験や知恵が集結し、その知識を欲している人に最適化されて提供される。とても美しいサイクルに見えます。これは地球レベルでみた情報リテラシーの大変換で、もうSFの世界で。住民の脳が中央コンピュータに接続されて集合知がアップデートされ天才政治が行われる世界、みたいな(ベタすぎますけど)。

この感じ、wikipediaに近いような、でもちょっと違う。オープンソースとも。daoの世界とも?いやdaoは私理解できていないんですが。

著作権の扱いと、ビジネス利用(インプットもアウトプットも)の部分が違うのかなあ。それは大きな違いではあるんですけど、なんか他にあるような気がするんですよね。で、考えたんですけど、違いという角度ではうまく言語化できないんですよね。

で。代わりといってもかわりにならないんですけど、生成AIコンテンツの提供形態としてこんな世界だったらどうでしょう?そうなりつつある感じではありますが。

コミュニティや専門領域やアプリに紐づくものはその中で完結したサービスに。会員やサービス利用者がログインして利用できるような形。会社四季報が始めていますね。日経テレコンの派生サービスとか。新聞や雑誌のアーカイブもたとえば「ロッキード事件」を朝日新聞の記事全体からまとめてもらうとかもできるわけです。目的は謎ですが私の履歴書年表とかも作ってもらえるわけです。その他学術系のコミュニティであるとか、大学、予備校、資格学校など。既存のDBを人間が引っ張り出して加工して提供していたものをAIが代行し付加サービスとする感じ。あるいはmicrosoft365やadobe、legalforceみたいにアプリの付加サービスとして提供。業務系のアプリやシステムは汎用性があるものから需要に応じてカスタマイズ。今でいうとチャットボットでお問い合わせ対応みたいな領域がかなり広がると思います。

その他のウェブにアップされるコンテンツは、ユーザーがブログなりSNSなりのサービス申し込み時にAI学習の可否を指定する仕様に。逆にAI事業者はこのブログのコンテンツ欲しいという場合は条件含め交渉できるシステムも整っている、という仕組み。

汎用AIサービスについて。今でいうところのchatGPTのプロンプト窓みたいな形で続くのかなあ。もう少し目的に寄ったものにメニューが分かれて、整理されていくのではないでしょうか。ひとことでAIといっても、動画を生成するとか、百科事典を全部飲み込んで分析するとかの重い仕事もあればそうでないものもあると思いますが、そこに関しても現状のようなサブスクと、あとはポイント制みたいなものになっていくのではないでしょうか。私としては事業者がサービスの目的別に規定することで、「食べさせるもの」も整理されていく方向になることが、クリエイターやAI事業者にとってもいいことになるような気がします。プロンプト窓一つで、なんでもできます、というドラえもんのポケットみたいなものではなく、具体的なツールの集合体に見えた方が利便性も上がるでしょう。AIに、あなたは科学ジャーナリストです、みたいな暗示をかける手間も減らせます。

キレのある結論が出るまで待とうとダラダラ書き続けましたが、出ませんでした。残念。以上です。タイトルに呼応する答えはありませんでした。すいません。

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