羽生さんは同世代ということもありまして、高校球児以外ではめずらしく、子供時代から注目を浴びてきた人として認識していたという感じでした。意識はしても将棋そのものが壊滅的に弱く、多分算数の関数や公式みたいなのよりも、詰将棋の方が感覚的に苦手。どうにもダメで弟にも勝てない。そうなると自然やらなくなってきて、ますます遠いゲームになっていきまして。なので若くして快進撃を続けた羽生さんも、同世代の強烈に頭がいいスーパーマン、ぐらいにしか認識できない。まあ羽生さんの本当の強さを的確に言語化できる人などは少ないのかもしれませんが、とにかく感覚的にははるか遠くのどこかで大活躍しているスターという感じで、一本調子の「すごいなあ」しか出てこなかったわけです。
そんな遠かった羽生さんのインタビュー記事をどこかで読んだ時に、なんとも人間的でかつ真摯に言葉を出す人なんだなとびっくりしたのでした。遠くの国の関係ないと思っていた人が、あれ、同じ言葉を話すんだ、そうだったんだ〜という感じです。将棋の極意のような難しいことは言語化されてもわからないでしょうが、将棋の強さとは何か、強くなるための心がけや考えなどは簡潔でわかりやすい語り口で。そして出し惜しみをしないで極力誠意を持って説明しようとする心意気みたいなものを感じました。一流の棋士だから一流の言語化能力を持っているとは限りませんよね。遠い存在をぐっと言葉で近くに引っ張り込んでもらえた感じがして、ファンになりました。
羽生さんとの馴れ初めについてばかり書いてしまいましたが、やはりとんでもない実績を出している人への憧れというか好奇心ってあるんですよね。もちろん人物伝やルポもいいんですけど本人の頭から出てきた言葉は格別です。そして本書はIPS細胞でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中先生。このお方も世界を驚かす大発見をした偉大な研究者なのですが自然体で気さくなイメージがあるかたですね。各界トップの2人が最先端の知恵をぶつけて語り合う、という感じの内容かと思われますが、蓋を開けてみるともっと穏やかでカジュアルだけど大いに知的なトークでした。頭脳対頭脳、の対決ではなく、お互いのやってきたこと、その「ギョーカイ」について素朴な質問から教え合い、共通点、違うところ、そして結果を出すための環境や自分の心得などを忌憚なく交換します。異業種コラボの共同研究というか、お互いの出してきた結果のクロス感想戦というか、なんというか、そんな感じです。お二人ともジャンルは違えど根っからの研究者であり、その共通点がかみあってのこのトークになったんだなあと。
互いの「ギョーカイ」を語るときに共通して出てくるのがAIをはじめとしたテクノロジーです。ここが架け橋となって話が展開するのも面白いですね。読んでいて気持ちいい異種格闘技戦でした。
『人間の未来 AIの未来 単行本 – 2018/2/9』
山中 伸弥 (著), 羽生 善治 (著) 講談社
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