本書の特徴的なカバーデザインとけだるげな面白そうなタイトルは店頭で見て気になってはいました。太田出版から出てた版が印象に残っているんです。とても私好みなんですねえ。著者のお名前は当時知らなかったけど知識人のエッセイなのかな、学者かな、厭世家みたいな感じの人なのかな、それともサブカル寄りなのかな、など中身も見ずに推測だけをして、でも買っても多分読まないからなあと棚前で手にとったり戻したりして結局買わなかった記憶があります。振り返ってもしょうがないのですが、あの時迷った挙句に本書を買ったとしても、やっぱり読まなかっただろうなとは思います。あの頃が一番本を読まなかった時期でしたねえ。
10年前に読んでだらよかったのになあ、面白がっただろうなあと思うんです。仕事もドタバタしていたし、子供たちもまだ本当に子どもだったし、充実していたといえばそうなんですけど予定と時間にしばられていたなあと思います。そんな時に暇と退屈がテーマの本なんて見向きもしないものなんですけど、だからこそ読んだらいい感じで力が抜けたんではないかなあと思ったんです。
哲学書であると思うのですが、まず文体がとてもいいです。学術書のような書き方ではなく、「俺」という考えの主体に存在感があります。実は昔から哲学ワールドでは考えられてきたテーマだったんですね。暇であることがステータスであったり、産業革命で仕事と暇世界に革命が起きたり、そんな歴史的な流れの説明であったり当時の哲学者の言葉を深掘りしていくときも、学んで調べて暇と退屈のなんたるかについてを突き止めそして私たちにそれを伝える著者の主体を感じながら読めるのです。これは痛快で快感を伴う語りかたですね。哲学するといいますが、まさに哲学している臨場感を味わいながら読んでいる感じです。
結論が、ネタバレが、あたりは置いておいて、この哲学するツアーそのものが面白い。読後、このなんともいえない脱力感というか無力感というか、ふわーんとした感じ。こういうのを「整う」っていうのかわかんないですけど、いい意味で虚しくなったというか、なんというか。いい意味でむなしい?
『暇と退屈の倫理学 増補新版』
國分 功一郎 (著) 太田出版
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