生成AIでクローン書籍が無限増殖する?:2025年の大ピンチ図鑑2

デジタル書籍・AI・海外版権

みなさんご存知でしたか?大ピンチ図鑑には続編もあり、昨年、2024年のベストセラーランキングでは第一弾となかよくランクインしているのですよ。続編だらけのランキングだという点でも話題になりましたが、その是非もなにもファクトなので、はた目からは「うらやましい」しかないですよ、ええ。

というわけで、別に誰に求められているわけでもないですが続編の2025年の大ピンチ図鑑2でございます。これからアップする予定の「デジタルブックニュースまとめ」にこのような記事をご紹介する予定なのです。

アマゾンの偽造書籍と海賊版との闘い/Amazon’s Struggle with Fake Books and Piracy(Good E Reader)

これはネタ元としていつもお世話になっておりますGood E Readerさんの記事です。知名度がある書籍のタイトルと見た目が似ているが中身がひどいKDP(個人出版)コンテンツが出てきた。レビューで糾弾され消えたが、生成AI登場後は精緻なパクリコンテンツが多く出てamazonも対策を取り始めたが抜本的な解決になるだろうか、とざっくりいったらそんな内容です。あまりしっかりご紹介するのもあれなのでGoogle翻訳などかけてみてくださいませ。

生成AIが執筆したと思われる作品があまりにも数多く出るのでアマゾンが一日にアップできる点数を制限したという記事はこのブログでもご紹介した記憶があります。KDP(個人のキンドル出版)の話ですが、大手出版社ならまだしも個人出版で一日に何冊も、そもそも出せるもんじゃないよねと読んで笑っちゃった記憶がありますが、日々生成能力が質量ともに上がっているわけで、人は休んでもせっせせっせとブラッシュアップを続け生産しまくれば質はともかく無限にコンテンツは作れます。

1月5日(曇り)

近所の公園を散歩したが、やっぱり人が多いのが気に食わない。あちこちで子どもが騒いでいて、せっかくの静かな時間が台無しだ。池のカモを眺めていたら隣に知らないおじさんが立ち止まったが、何か話しかけてきそうな雰囲気だったので、すぐ立ち去った。最近は本当に自分のペースを乱されるのが嫌になってきた。

スーパーで白菜を買おうと思ったが、なんだか値段が高い気がしてやめた。こういうのも、値上げを見越して買うのが「賢い消費者」とか言うんだろうけど、そんな風に踊らされるのは性に合わない。結局、家にあったインスタントラーメンで済ませることにした。

ひねくれおじさんの日記を書いてくれ、といったらこんなのが出てきました。私はこれを書いてもらうための労力はほぼゼロです。一行打ち込んだだけなので。ですがこの文章の内容もゼロです。知らない人のなんでもない日記には需要がありません。そもそも情報に何らかの検索で引っかかる要素がないので、誰の目にも触れることがないわけです。ブログなどでも、ただ書いているだけではなかなか読まれる事はありませんよね、ましてや売り物のコンテンツの中で目に留めてもらうのは大変です。なんぼ生成AIがテキストを大量生産できてもそれだけでは商売にはならないでしょう。

ではどうしましょう、たとえばこれを「大谷翔平日記」というタイトルをつけて、生成AIに大谷翔平っぽい写真を合成してもらってカバーデザインを作って、内容紹介文にはウィキペディアの情報から書籍っぽい説明と目次を作ってもらってアップしたらどうでしょう。大谷翔平で検索する人が「あれ?日記出てたんだ、知らなかった」と読み放題でポチッとする可能性は結構ありそうです。そして少し読んでみたら大谷でもなんでもないひねくれおじさんの日記だったらどうでしょう、怒ってライブラリから削除するでしょう。昔々SEOという言葉が出るかでないかの頃に、自分のサイトを検索上位に入るためにずいぶんなことをするテクニックが流行りましたが、やはり無理矢理ひっかけるようなやり方は本来のサイトの価値とは関係ないので、淘汰されていきました。

生成AIのコンテンツも、さすがに世界の大谷の名前で出しちゃうと一発アウトでしょうが、ではなにかに寄せることでSEO的にうまく引っかかる方法はないか、と考えるとどうでしょう。なんだかワークみたいになってきましたが、実にうまい方法があるのです。お前どっちの立場なの?といわれそうですが、ちょっとここ見てみてください。

個別商品ではなく検索結果へのリンクなのでブログツールの見栄えは悪いのですが、このリンクが何かといいますと、アマゾンのKindleストアから『エッセンシャル思考』で検索した結果の発売日降順です。ちなみに『エッセンシャル思考』はこの本でございます。

すごくないですか?最初にご紹介した記事は米国の事例ですが、日本でもクローン本?のようなものが続々制作されアップされています。この記事を執筆している時点で確認しますと2024年12月からの一ヶ月ちょっとで11冊『エッセンシャル思考』とタイトルに入っているキンドル本が出ているんです。

一番上の、元旦に発売されたものは意匠もかなり似ています。2番めと3番めのものはロングセラーのタイトルをSEO的に引っかけて、さらに自己啓発成功本タイトルのタグ集のように仕立てた感じではありませんか?ずらっと並ぶ、AIが書いたかどうかは断定できないけれどもタイトルのキーワードが立っている書籍に引っ掛けて作られた可能性はかなり高いのでは。

それぞれの本文をちゃんと読んではいないのですが、このような類似本は大まかに3つのパターンに分類できます。

1安易なクローン本。カバーを寄せて間違って購入されることを誘導する。

2要約・まとめ/マンガ版

3元の本のメソッドを特定の分野に応用する。

1に関しては冒頭の記事にもあった例の通りで、自炊してOCRかければ簡単にコピーはできますね。AIをかます余地もありません。ただ著作権的にはわかりやすくアウトなので、ストアに通報すれば適宜対処してもらえるものと思います。

2と3についてはAIの本領発揮ともいえる領域でしょう。たとえば詳細目次や内容紹介をアマゾンの書誌情報から取り込んで書籍のエッセンスを覚えさせ、この章立てにふさわしい本文を書いてくれとAIに頼めば朝飯前にやってくれます。マンガもコマを画像生成してつないでいくこともできますし、作画を支援するAIサービスも多数存在しています。3についても同様に目次で本の内容を理解させて、このメソッド使ってコーチングのノウハウをまとめてくれ、というような依頼をすれば瞬時にもりもりと執筆してくれることでしょう。肉付けも簡単にできるので、ボリューム感を出すことも容易です。

ではこれの何が問題なのか、という話なのですが、1に関しては先ほども書いたように著作権を侵害、具体的には複製権(法第21条等)を侵害する行為とみなされるでしょう。例に挙げたように自炊で完コピしたようなものは明白です。

ややこしいのは2と3です。2のまとめや、あるいは書評については相当量のボリュームがありこれまとめというよりそのものじゃない?であったり、ほとんど引用で構成されているような露骨なものでない限り著作権を侵害していると立証するのは難しいと思われます(個人的な見解です)。それを一冊一冊しっかりと検証する労力がなにより大変です。3については元本の内容の応用になりますので、創作性があるということでこれも侵害とみなされないのではないでしょうか(個人見解)。

そしてふたたび何が問題なのか、なのですが法律的にはホワイトあるいはグレーならばこれは類似本が出るぐらいの有名税だから仕方ないことと納得するしかないのかもしれません。ただやっぱりタイトルSEO的にただ乗りして簡便に作られた読み放題コンテンツが検索結果にずらっと並ぶのは嫌だなあ、と感じます。問題は誰でも簡単にこのようなコンテンツが大量生産できてしまう状況といえるかもしれません。レポートや記事のまとめは私も便利に使っている機能ではありますが、それを自分のコンテンツとして発売できるというのはなあ、という倫理的な抵抗感は残ります。もう一つは、著者と編集者が並走して時間をかけて作り上げるコンテンツをはるかに超える生産性でこのような乗っかったコンテンツがアップされると、ストアはどうなっちゃうんだ、ネットにあふれる有象無象の情報と変わらなくなってしまうのではないかと危惧しています。

かつてtwitterに有名人のなりすましアカウントがあふれて公式バッジが生まれたようなルールができてくるのか、それともAIが作ったコンテンツだよ、というラベルをつけるのか、これも線引きが難しいところもあるでしょうか、でも何とかならないかな、という最終的にはボヤキで締める、大ピンチ図鑑2でございました。あ、これもタイトルSEOになっちゃうか?

著:鈴木のりたけ
¥1,485 (2025/05/15 10:36時点 | Amazon調べ)

コメント

タイトルとURLをコピーしました