デジタル書籍コンテンツとか海外版権だとか:2025年の大ピンチ図鑑

デジタル書籍・AI・海外版権

昨年は、noteのほうに新年の抱負というか、ご挨拶というか思いを正月からガチ長文で綴ってしまい、ちょっと恥ずかしいなぁと思っていたところ、 正月だからなのか結構読んでいただいたみたいで、こわくてびくびくしていました。普段は人の書いた記事にコメントを入れているだけで、自分の通常の仕事とかと結びつけたり、そこから発展して自分の意見を発言しているわけではないので気楽なもんなのです。自己紹介や仕事との関わりなんて知らない人に話したことなんかないですからね。ましてやシラフで。一方で、一回書いちゃうと言葉になっているんで自己紹介が楽になるということもわかりました。私の持ち場は「編集者」のように通りがよくないし、これまでは部署名も直感的に分かりづらいところがあったので説明がスムーズになったかなとは思います。

出版業界は大ピンチ図鑑

去年のタイトルは『僕たちはどう生きるか』に引っ掛けたので今年もフォーマットを踏襲しました。

深い意味はありませんが、あちこちに書くと後でわからなくなってしまうので、今年からは新規で何か書くときはnoteではなくてこのブログに統一しようと思います。

お仕事関係の近況につきましては、部署の名称やチーム編成は変わったりしましたが、業務の領域は大きく変わっていません。文字もののデジタルコンテンツの制作販売と海外への版権輸出になります。それにくわえてネット書店の紙書籍・電子書籍に共通して関わるところにも携わっています。今、1年前の自分の記事を赤面しながら読んでみたのですが、そうですね1年とても早かったですけれども、外的環境にはわかりやすい大きな変化はなかったのかなあ。デジタルコンテンツやAI海外事情のニュースをチェックして毎週まとめ記事を出しているわけですけれども、そうやって新しい情報に触れながらこのニュースは今直接仕事に関わることではないけどどう受け止めて参考にするか、これからをどのような方向で進んでいけばよいのだろうかの考えのパーツにどうしていくか。最近更新しながらなんとなく頭の中にためていっていることを綴ってみたいと思います。

外的環境はあまり変わっていないというふうに先ほど申し上げましたけれども、いろいろな要素が混ざってきている。そして方向性ができている。何かに向かって統合する方向で進み始めているという実感があります。具体的にはこんな感じです。

  1. AIがデジタル出版と言語の壁を統合して進む。
  2. 紙は紙であるべきところ、紙の値段が吸収できるところに。

正月だからって気が大きくなって業界を語る人のようにビッグワードを入れちゃっているけど、回収できるんかこれ、とおののきながらも進めます。まだシラフです。


AIがデジタル出版と言語の壁を統合して進む

まずはこちらから。デジタル出版については出版社とKDP(個人出版)それぞれ事情が違うと思いますが、文字ものの出版社としては紙の書籍は引き続き資材高騰と運送費、保管費用も全方位的に値上がりして、それを吸収するために商品の価格を上げることが必要になりました。既刊本の値上げも増えました。近所のスーパーに行っても「いつの間にこんなに高くなっていたの」という商品も増えましたので、それに比べたら上げ幅は大したものではないですが、ポテトチップスみたいに何回も上げることもできないし、中の分量をちょっと少なくするみたいな技もできないので、そこは不利ですね。いや、デジタルの話でした。

電子書籍は印刷データから短期間でローコストで作ることができるので、別データというよりワンソースといってもいいかもしれません。本ブログはオーディオブックの情報に重点を置いて集めているので、オーディオブックの話からいきますと、デジタルデータであることは間違いないのですが、アナログな人間が吹き込んで、そのデータを人間が編集作業をして作られているので、制作期間も制作コストもそれなりにかかります。元のテキストをそのまま使うという意味ではワンソースですが、電子書籍とは訳が違います。

欧米ではオーディオブックの売り上げが電子書籍を超えたというニュースも今年繰り返しご紹介しました。日本の感覚ではちょっと考えられない市場規模で、欧米の真似をして「さあ追いつけ追い越せ、なせばなる」とは正直思えないですね。電子書籍もストアでは複数の販売方法があり、オーディオブックも同様ですが、単純にそれぞれのプラットフォームからの入金額でしか市場規模を推察することができません。その感覚から言うと、まだまだ電子書籍の方が売り上げが大きいのは間違いありません。

2024年10月のデジタルオーディオブックの売上は18.7%増加/Digital Audiobooks Sales Increased by 18.7% in October 2024(Good E Reader)

オーディオブックに関してはページ数というよりは文字の数によって、朗読にかかる時間やスタジオの費用、編集の時間がかかってくるので、制作コストは電子書籍とはちょっと話が違います。単行本であれば詩集と小説は同じくらいのページ数なら値段もあまり変わらないこともあるかと思いますが、オーディオブックを制作するとなると、おそらく詩集より小説の方が数倍のコストがかかるかと思います。ですので制作原価と売り上げのバランスが電子書籍とオーディオブックではかなり変わります。オーディオブックのほうが作るのにお金がかかって、戻りが小さいです。

オーディオブックに関しては、昨年末、新しいサービスの開始発表がありました。このブログでもご紹介しましたが、スマートブックスというサービスです。現役大学生であった冨田さんが立ち上げたベンチャーですが、富士山ドットコムの創業メンバーの1人でもある相内さんが代表となり、ビジネス書書評サイト ビジネスブックマラソンを発行する土井さんが参画し、目下サービス本番開始に向けて準備しています。このサービスの特徴は、鮮度が重要なビジネス書をAI音声に朗読させることで、制作の効率化とスピードアップを図るという点にあります。

人間の朗読のクオリティーよりスピード感を重視し、それを売りにしようとしています。サンプルを聞く限り、ビジネス書のような解説が中心の内容であれば特に違和感なく聞くことができます。会話を多用するようなビジネス小説や講演の書き起こしのようなものではなければ問題ないでしょう。それが実現すると、このサービスにおいてはオーディオブックが電子書籍と同じようなコストと利益の構造になる可能性があります。

このサービスについてもう一つ注目したい点があります。書籍のテキストをAI音声が電子的に朗読するというのは、朗読という行為があるわけではなく、テキストを音声に変換するということになると思います。後からイントネーションなどの微調整を行うこともあるかとは思いますが、基本的には変換という表現で間違いないのではないでしょうか。つまり、これは電子書籍にTTS(Text-to-Speech)が付随したものだと言えるかもしれません。言ってみれば、KindleのTTS対応電子書籍と同じであると言えるのではないでしょうか。この発想は文字ものの書籍に新しい視点を与えてくれるのではないかと思っています。

昨年の正月に書いた記事では、多言語への展開もYouTubeの翻訳字幕のようにインフラが整っていく可能性について言及しました。AI翻訳の精度がここまで進めば、ハルシネーションの心配が多少あるとしても、ほぼ間違いなく瞬時に翻訳されるという信頼があります。アカデミックな厳密性や、普段使われないような専門用語だらけの内容は別として、仕事の心得やモチベーション、生き方などがテーマの本であれば、AI翻訳で読むことに全く問題はないのではないでしょうか。

そもそも、iPhoneのデフォルトの写真アプリに外国語で書かれたテキストをかざすとテキスト部分を認識してくれて、画面上で翻訳をしてくれます。英語の本のタイトルを写真アプリでかざすと、ワンタップでざっくりではありますが日本語でどんな本か、どのようなタイトルか、どのような内容かがわかります。これを英語のテキストのまま購入し、ビューワーアプリ上でライブ翻訳されたものを読むというアプリの仕様であれば、版権を購入することなく、ネイティブ言語の販売として世界中どこでも流通させることができる可能性があります。

つまり、母国語のワンソースで、AIが翻訳可能な言語の数だけ読むことができるようになるということです。

ここで先ほどご紹介したスマートブックスの話に戻ります。事業発表会のイベントレポートでは、海外展開についての言及もありました。スマートブックスは、電子書籍のTTSサービスであると言えるかもしれませんが、多言語に瞬時翻訳した場合、その言語でのTTS(Text-to-Speech)による音声出力も同時に可能になるわけです。つまり、AI翻訳を活用することで、世界中で読める電子書籍とオーディオブックが同時に作れるようになるのです。

もちろん、AI翻訳の精度に関する課題は残っています。特に人名や地名などの固有名詞の正確性を担保できるのかという問題や、専門的な言葉や表現がうまく翻訳されない場合の対応が必要です。また、翻訳ミスによって何か問題が起きた際の責任の所在といった課題も浮上するかもしれません。しかし、これらを踏まえた上で、それでも早く読める方が大事、ざっくりでも大枠を知りたいという需要には十分応えられると思います。

さらに、読者ターゲットを国内に限定せず、全世界を視野に入れて考える発想が求められます。日本の読書人口が頭打ちになり、働いていると本を読む時間がない、書店数が減少しているといった状況を背景に、デジタル面では世界中に流通させられる環境が技術的に整っています。これはまさに、きっかけ待ちの状態と言えるのではないでしょうか。

マンガやアニメなどの日本発のコンテンツは世界的にも高い評価を得ていますが、AIを活用した制作・配信の迅速化により、さらに多言語版が公式に提供されるようになっています。マンガではそのような制作環境を活用して多言語版を制作・販売していますが、文字ものの書籍もジャンルやタイトルを選べば、アプリ機能を通じて世界同時発売が現実のものとなるかもしれません。これは、日本から海外へ、また海外から日本へという双方向での展開が可能になるということです。

紙は紙であるべきところ、紙のお値段を吸収できるところに

紙書籍を取り巻く環境は「大ピンチ図鑑」とでも言いたくなる状況です。前述の通り、ここ数年資材の高騰が続いております。この資材コストの上昇はいつか一服するのか、あるいはさらに続くのか、予測がつきにくい状況です。流通コストも同様に上昇しており、厳しい環境が続いています。パルプも石油も輸入なので

特に単価が安いジャンル、例えば子供向けの本や学習ドリルなど、固定観念として「1000円でお釣りが来る」というイメージが強くあるものは、価格改定が難しいため非常に厳しい立場に立たされているのではないでしょうか。このようなジャンルでは、競合他社との価格競争を続けるだけでは持たなくなってしまうでしょう。そのため、「他のメディアではなく、なぜ書籍として提供されるべきなのか」という問いと向き合わなければならないと感じています。

ここで、予備校業界の変化が参考になるかもしれません。大学受験予備校の授業は、私が現役の頃は100%対面形式でした。その後、サテライト授業(現在でいうところのライブ配信形式)が登場し、現在ではオンデマンド録画授業が主流となっています。これらの進化は、受験生一人ひとりのニーズに応えつつ、学習の効率化を追求した結果と言えます。

このように、目的が同じでもサービスの提供方法が変わることで新たな価値を提供できる可能性があります。一方で、書籍の場合は予備校と違い、その目的が非常に多様です。大学受験の参考書だけでなく、小説や物語、学術書、写真集、エンタメ漫画、さらには漫画で学べるコンテンツなど、目的やジャンルが広範囲にわたります。この多様性こそが、書籍の価値を再定義する際の難しさでもあるのです。

書籍は、情報が印刷されて載っているというパッケージとしての共通点があるものの、それが求められる目的は人間の欲望や課題の数だけ多様です。そのため、書籍というパッケージにする際に採算が取れるだけの需要があるのか、というマーケティングの課題が常に存在します。特に文芸作品などでは、需要予測がさらに難しい場合もあります。

以前、どこかで書いた気がするのですが、私は出版社の役割を「知のタレント事務所」と考えるとやるべきことが見えてくるんじゃないかなあ、と思っています。例えば、芸能プロダクションには音楽家、俳優、知識人など、多様な才能や実績を持った人々が所属しており、その才能を活かすためにマネージャーが適切なアウトプット先をアレンジします。それは、フェスやドラマ、セミナー、バラエティ番組、雑誌のコラム、YouTubeチャンネルなど、多岐にわたります。この出し先じゃないといけない、というものではないのです。

同じ発想で、出版業界も著者やコンテンツの才能を最大限に活かし、適切なアウトプット先を模索するというように考えると、やるべきことに選択肢というか、膨らみが出てくると思います。そのためには、紙の書籍が望まれる場面を見極めると同時に、デジタルや他のメディアと共存しながら、新しい形で情報を提供する方法を模索していくことが求められると思います。メディア連携と、キャッシュポイントの置きどころがポイントなのではないかと。いいっぱなしになるのも恐縮なんですが自分の宿題でもございますので、私の脳内課題共有ということでここまでとさせていただきたいと思います。三が日も終わってしまうのでこの辺でドロンします。本年もよろしくお願いいいたします。みんな、大好きです。

このあたりの議題でのブレスト飲み会はいつでも歓迎でございます!

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