結構大胆なタイトルですよね。個人の犯罪ではなく、組織的に起こる不正や企業の犯罪について書かれた本です。本書では、いくつかの事例をアカデミックに検証しつつ、時にはルポルタージュのように時系列で詳細にアプローチしています。確かに聞き覚えはあるけれど事件の名前しか知らなかった事象について、「そういうことだったのか」と知識を得ることができました。
本書で取り上げられている4つの事例は、いずれも組織的不正がなぜ起きたのかを明らかにしています。
- 燃費不正
燃費測定(惰行法)を法令通りに実施できず、不正になってしまった事象です。
原因:惰行法は気温や風などの影響を強く受け、一定条件を保てないため、各社が妥当な測定方法を独自に採用していた結果、不正とみなされました。 - 東芝会計不正
経営側が短期利益を求めたのに対し、現場は長期的でしか利益(売上)を上げられない状態にあった事例です。
原因:経営層の短期的な目標が、現場との乖離を生んでしまったことです。 - 品質不正:ジェネリック医薬品
ジェネリック医薬品の普及目標(シェア80%)が設定され、生産が過剰となりました。
原因:生産に人員を割きすぎたことで品質確認の人員が不足したため。後に人員補充の基準が設定されました。 - 軍事転用不正
警視庁公安部による冤罪事件。
原因:何が「軍事転用」になるのかの定義があいまいなまま、公安が起訴を前提として動いたことです。
これらの事例を見ると、事の発端には悪意や高慢さがあったわけではなく、真面目に対策していく過程で予期せぬ方向に進んでしまったケースも多いことが分かります。
読んでいてやるせない気持ちになる一方で、やはりタイトルに意識が戻ってきます。「いつも正しい」という表現は本当に適切なのだろうか?とも感じました。特に印象に残ったのは、「ルールや規制が細かくなると、人はその反発でルールを破りたくなる」 という指摘です。ルールと不正の関係が“いたちごっこ”だとすれば、「正しい不正」という言い方にはやや違和感があります。面白いタイトルではありますが、アカデミックなアプローチの書籍だからこそ、少し気になってしまいました。
また、「ソーシャル・アバランチ」 という言葉も直感的には理解しづらいかもしれません。私は「アバランシュホールド」というプロレス技の単語を小学生の頃から知っていたので、少しうれしく感じた部分もありました。ただし、技の名前としては「オクラホマスタンピード」の方が個人的に好きです。全くの余談でした。

『組織不正はいつも正しい~ソーシャル・アバランチを防ぐには~』
中原 翔 (著) 光文社新書
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