読書メモ:自分とか、ないから。教養としての東洋哲学(audible)

オーディオブック読書メモ

すごい売れていることはランキングを見て知っていたんですけれども、「自分とかないから」っていうのは、最近のトレンドの「自分が大事」とか「他人は気にしない」、嫌われてもいい、嫌われる勇気を求める流れの中で、昔の「不適切にもほどがある」みたいな感じで「自分とかないから」と言われているみたいな、そんなタイトルで大丈夫なの? と思いました。まぁ、それはただの私の印象だったんですけれども、教養としての東洋哲学みたいなサブタイトルが入ってくると、「あそうかそういう話なんだね」と気づきました。なかなかトリッキーで挑戦的な本だなと思いました。

で、売れているということ以外は予備知識も全くない状態で読んでみたんですけれども、やっぱり「売れてる本は面白い」の法則(勝手につけました)通り、めちゃくちゃ面白い、痛快な1冊でした。

私も学生時代に哲学をとったりしていたので、それっぽい言葉に触れて過ごしていた時間があったんですけれども、それはやっぱり西洋哲学の話で、いわゆる東洋的なものや東西の比較みたいなことはほとんどありませんでした。そもそも東洋哲学とは何ぞや、みたいな体系的な授業を受けていなかったので、非常に教養として心細い状態だったんですよね。のんびりおおらかに歳を重ねてきたこともあり、著者のようにプライベートでの苦難を経験したこともなく、 必要に駆られて、親身に哲学と本気で向き合う経験もなく、哲学をスナップ写真みたいに表面的にしか受け止めていなかった。記憶術的な理解で済ませていたんだなということを再認識しました。 まぁ記憶も 怪しいちゃ怪しいんですけど。

自己啓発書って、マインドとか、お金の本質みたいなテーマを扱うじゃないですか。いわゆる今の日本の出版業界で「自己啓発」とされているジャンル。それを徹底的に面白く、エンターテインメントの文脈で、ストーリーの形に昇華させたのが水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』だと思っています。あんなに痛快で単純にお笑いネタみたいなレベルで面白くて、さらに自己啓発書のエッセンスが入っているというのは、本当にすごい仕事だと思います。

本書にも、エンターテインメント性と哲学の本質に迫ろうという試みがあります。「もっと本質に近づこう」という気概、 なのかわからないけれども、内的なモチベーションとか方向とか求めた救いとかはにじみ出てきます。学術的な正確さやまとまりについては私には分からないんですけれども、「本質に近づけた」という感覚が得られるのに加えて、ちゃんと面白い読み物として仕上がっているのがすごい。こういう「やられた感」は快感ですね。

さらに、これは著者が実際に悩みを解決するために調べて、東洋哲学を始めとする考えに行き着いて救われた、という話だと思うんですけれども、東洋思想に行き着いて救われたというシナリオ自体が珍しいと思うんですよ。仏像解説とかで、みうらじゅん的な作品もありましたけれど、教えに救われてのめり込んでいく話をここまで料理している例はあまり見当たらないので、とても新鮮でした。インドに行って考えたとかではないです。布団から出ずに、とのことです。

あとで気づいたんですけれど、『夢をかなえるゾウ』のガネーシャもインドの神様でしたよね。でも、 ガネーシャの教えを解説する。ガネーシャの本質をひもといていく内容ではなかったので、これは違うか。

著者はきっとお若い方だと思うんですけれども、僕らの感覚では出てこない言葉や視点が、無理のない形で盛り込まれていて、リアルだなあ、こうなるのかと。本書が「つまずいたときの入り口」として、ハードル低く入れるような形で迎えてくれる本になれば、とても良いなと思いました。

哲学を教科書的に学ぶ必要がどれほどあるかというと、知識としてはそんなに意味がないのではないかと思います。でも、昔からの考え方をどう自分に落とし込むか、その運用スキルこそが大事で、そういう意味で本書のような入り口があるのは素晴らしいと思います。こんな世の中で、執筆字には成功者ではない立場の人がこのような本を書き、それが見出されてベストセラーになるというのは、夢があっていいなあ、「ない」立場の人が「持った」状態での続編も読みたいなあ。

著:しんめいP
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『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』
しんめいP (著), 鎌田東二 (監修)

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