M-1は毎年なんだかんだいって楽しみに見ています。生放送のプログラムとして様々な演出が凝らされていて、エンタメコンテンツとして華やかだなあと感心しながら。緊張の極致で練り込んだネタを早口で展開する若者たちを、最近は親の目線でハラハラしながら応援しているような部分もあったりで楽しみ方もちょっとずつ変わってきているんだなあと気づいたりもします。
南海キャンディーズの登場はインパクトがあったのでよく覚えています。まずはビジュアルと組み合わせ。そしてツッコミというよりはおもしろコメントみたいな形で進行する新しい感じの面白さ。本書を読んであらためて、そうそうそんなネタだった、となつかしく思い出しました。
本書を「どんな本です」と評したらいいのかわからないしそれが目的でもないのですが、内容は南キャン山ちゃんの自叙伝です。彼は若いけれども「私の履歴書」とカテゴリは同じです。そして山ちゃんがお笑い芸人・タレントであることから本書はタレント本であるともいえます。お笑い芸人という職種・業界のシステムがわかる。お笑いの賞レースの仕組みや意味合い、そして裏側、芸人さんの感情の機微がわかる業界本でもあり、ドキュメンタリーでもあります。本のジャンルとしては、です。でもいちばん強烈なのはお笑い芸人になると思い立った瞬間からの立志伝中の人としての心の動きから詳細な行動のログです。青春らしい若くて青いエピソードもありますがほぼほぼドロドロガツガツクヨクヨ、それもかなりの濃度。現在の、キャラとしての「キモさ」の感じとは全く違う熾烈さ、苛烈さみたいなものは全く印象がなかったので驚きでした。実話だと分かっているだけに読んでいて(聴いていて)苦しくなる場面が何回かありました。山ちゃんそこまで書かなくっていいって。。と。その日に書いた日記のようにディテールまで書かれているのです。
僕などは鮮烈なM-1での第一印象で、もう「出来上がったコンビ」として南海キャンディーズをパッケージとして見ていたわけです。それまでのあれこれなどは全く知らないです。そしてその後も確かにしずちゃんの映画とかボクシングもネット記事の見出しとしては知っていますが、逆にいうとそれだけしか知らないわけですね。裏にある、あり余る情念やエネルギーが正直重い(笑)です。
またその一方で立志当時から全く変わらないお笑いへのストイックすぎる取り組みと、自分のストイックさの敷居を下げることなくパートナーや関係者との関係を修正していく成長譚はストーリーが詳細で具体的だからこそ超リアルに生々しく感じられ、薬用成分濃度が非常に高い自己啓発書としても成立しているのでございます。
オードリー若林さんの解説も、合わせて一つの作品として感じられるぐらいの噛み合いっぷりで素晴らしかったです。
『天才はあきらめた』山里 亮太 (著) 朝日新聞出版
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