コンサルタントの方が教科書的に書いた本は難しくなりがち、というのはある意味当たり前の話で、普通に当たり前にやっていた事業の問題を解決するだとか、このような事業は今後なりたつだろうかという将来型のお題まで、人ができない経営・ビジネスの難題を外部から請け負う仕事なので、そもそもお題が高度で複雑な話には、なってしまいますよね。色々な大人の事情、たとえばグループ会社のポリシーだったりクライアント社長の意向だったり事業とは直接関係ないけれども重要度が高い要素なんかもあるでしょうし、解決する側の布陣だってあるでしょう。それを誰でもわかりやすくシンプルに落とし込むというのはお題そのものが無理筋にも思えます。方程式を代入すれば解けるように、フレームワークをそのままぶちこんでめでたし、というわけにはいかないことは、零細企業でコンサル会社とは縁のない社会人経験の私にすらわかります。あ、著者としてのコンサルタントの方と接したことはありますけどこれはまた別の話ですので。
コンサルティングの問題解決という意味ではちょっと変則的ではありますが『ザ・ゴール』という名著があります。本書でゴールドラット博士役?となるジョナ先生は会社に入って手を動かすことはなかったので『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』の著者メン獄さんが勤めていた外資系コンサル会社の動きとは違いますが。でも複雑な状況下で高度な結果を求められる中、何が問題なのかマネージャーたちが右往左往しながら議論し問題を突き止めていくプロセスがとてもリアルで、シンプルな答えと目下の複雑な要因のコントラストが際立ち、痛快に読めるビジネス書です。あのボリュームの本をストレスなく読めるのもオーディオブックのいいところだと思います。読み直した記事はこちらです。
そんな超高度なビジネスアウトプットを大学でたての敬語もよちよちレベルの(一般論です)新卒ボーイが担当するってなかなかな無理ゲーだと思うのですが、本書を読むと本当に無理ゲーなのがわかります。そりゃそうだ。しかし優先順位・段取り・作業効率を徹底的に叩き込まれた上での徹夜連発という促成栽培が入社初日から始まるわけなのです。今ではとてもできないが、と何度か注釈がありますが、24時間戦っていい頃のお話で、できたからやっていたわけです。とはいえひたすら根性なわけではなく頭を酷使しつつの体力勝負の終わりが見えない耐久レース。コンサルはスマートで汗ひとつかかずテキパキと問題解決していくようなイメージ。また一方で誰が読むんだこんな大量のレポート、とクライアントがコンサル会社から提出された報告書にうんざりするようなイメージ。どっちが本当?でもどっちもありそうな。話に聞いたり本で読んだりドラマで見たりと勝手にイメージづけられたものですが、その両方を同時にこなしている感じです。
とはいえ本書はブラックな職種だとコンサル業界や著者が在籍した会社を告発するのを目的とした本ではもちろんございません。最初はヒヨヒヨで敵が現れてはすぐに倒されてしまったRPGの主人公が、コツを身につけ、弱点を克服して、パーティに助けられボロボロになりながらも成長していくストーリーです。当初は見えていなくて、先輩に指導されても何のことかわからず痛い目にあったこと。調子に乗って大失敗したこと。そしてチームの一員としての役割から、自分が中心となりチームを編成し引っ張っていく立場になるプロセス。これからこの業界に入る皆さんのために書きました、という目的から自分の失敗や回り道を強調しているのかもしれませんが、聴いているだけで肉体的にも精神的にも圧迫されるような気がしてきます。もう脱出してもいいんだよ、と頭のどこかで願ったり伝えたくなったりしてきます。成長ストーリーというと筋書き感、あるいは小説のようなイメージが出てしまうかもしれませんが、実務や段取りや価値観について、かなり具体的に(時にはパワーポイントのまとめかたなど)指南されています。貴重だと思うのはケース別、このような場合は、という場合別+臨機応変な含みが理由つきで語られていることです。とても優しい先輩です。いってみれば「しくじり先生」の神回、な感じです。
かなり熱量を込めて書いてしまいましたが、フォーマットと伝えたい思いと実務的価値がバランスよく整合している稀有な一冊だと思いました。なので、モーレツさはさておいて新社会人さんとかみんな読んだらいいのに、と思います。すっかり仕事に万能感を持っているベテランさんにもきちんと響くと思います。面白かったです。

『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』メン獄 著 文藝春秋
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